北信五岳
長野市の行政書士

長野市を中心に北信地域の行政書士業務を行っております。

行政書士から最近の情報をわかりやすく解説します。

相続法の改正について

2019年に民法における相続法の改正が行われました。
この改正は40年ぶりの大規模な改正となっています。
既に、法律が施行されて3年経過していますが、未だ十分に、改正の内容が知れ渡っている状況とはいえず、そのメリットを受けることができるのに知らずにいる方が多いのではないかと思われます。
最近は、あちこちで相続に関する話題が多くなってきていますので、少しずつ認知されているかと思いますが、このコラムでも3年前の相続法の改正から、直近の改正に関する話題まで、このコラムで取り上げていきたいと思います。
できるだけ分かりやすい内容にしていきますので、お目に留まった方は試しに一読ください。よろしくお願いいたします。

相続法改正の3つの特徴

2019年の相続法の改正には3つの特徴があります。
1.配偶者を保護するため
2.遺言の利用を促進するため
3.相続人を含む利害関係人の実質的公平を図るための見直し

具体的に何が新しいかというと以下になります。
1の配偶者の保護に関しては、配偶者居住権、配偶者短期居住権、持戻し免除の意思表示の推定、これらが新しく制定されています。
2については、自筆証書遺言の方式緩和、遺言書保管制度の創設、遺言執行者の権限の明確化がこれにあたります。
3については、仮払い制度の創設、一部分割、遺留分減殺請求権の金銭債権化、遺留分の算定方法の見直し、特別寄与制度の新設等がこれに当たります。

特に、配偶者の方は今までになかった新しい方法で現在住んでいる家に住み続けることができるようになりました。
ことばだけではわかりづらいのですが、次回から簡単に説明をしていきたいと思います。

配偶者居住権について

その1

相続法の改正の中でも影響が大きいと思われるのが「配偶者居住権」です。
これから何回かに分けてこの「配偶者居住権」について説明をしたいと思います。

配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に、亡くなるまで、又は一定の期間、無償で住むこと(居住)ができる権利です。
夫に先立たれた妻が、夫名義の家にそれまでのように住み続けようとした場合は、自宅の所有権を取得する必要がありますが、住宅を相続した場合は、老後の生活資金分が不足してしまうケースが考えられます。
そこで、建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けて考え、残された配偶者は建物の所有権を持っていなくても、一定の要件の下、居住権を取得することで、亡くなった人が所有していた建物に引き続き住み続けられるようにするものです。
配偶者がそれまでの住宅に住み続けながら、老後の生活のための資金を遺産から確保することができるようにするため、所有権よりも低額評価となる居住を目的とした「配偶者居住権」が創設されました。

配偶者居住権の成立するための要件については、次回説明をします。

その2

今回は、「配偶者居住権」が成立する要件についてお話しします。

配偶者居住権が成立するには、次の1~3の要件をすべて満たす必要があります。
1.残された配偶者が、亡くなった人の法律上の配偶者であること
2.配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に、亡くなったときに居住していたこと
3.その建物について、「遺産分割」「遺贈」等により、配偶者居住権を取得したこと
このことから、内縁関係にあった人は法律上の配偶者にあたらないことから、配偶者居住権を取得することができません。
ただ、法律上の配偶者にとっては、配偶者が亡くなった際に家に住んでいればいいですし、亡くなった人が遺言書に配偶者居住権を遺贈する文言があれば取得できます。遺言書がなくても、遺産分割について話し合いが行われた際に、相続人全員の同意があれば取得することができます。
成立するための要件はそれほど難しい内容はありません。

また、配偶者居住権を取得するということは、自宅を所有権と配偶者居住権に分けて、子供に所有権を、残された配偶者の方に配偶者居住権を、それぞれ取得することができます。
このことは、残された配偶者の方にも、自宅を相続する子供にもメリットがあります。次回はそのあたりをお話しします。

その3

配偶者居住権を取得した場合は、具体的にどの様な相続になるか、以下の事例で説明します。

【相続財産】自宅 2000万円、現金 2000万円
【相続人】 配偶者、子
・この場合の配偶者の相続分を計算すると以下の計算式により、2000万円を相続することができます。
(2000(自宅分)+ 2000(現金)) X 1/2(相続割合) = 2000

1)配偶者居住権を取得しなかった場合
・配偶者は、自宅に住み続けるために遺産分割において住んでいる建物の所有権の取得を希望したとします。
遺産分割の内容
配偶者  自宅 2000万円
子    現金 2000万円
この場合、配偶者が自宅を遺産分割したことにより、現金について相続することができずに、生活費を確保することができません。

2)配偶者居住権を取得した場合
・配偶者は、遺産分割において配偶者居住権を取得を希望し、居住権の評価額が1000万円となった場合、自宅の価額は以下のように、配偶者居住権と負担付所有権とに分けて評価されます。
自宅 2000万円 = 配偶者居住権評価額 1000万円 + 負担付所有権価額 1000万円
遺産分割の内容
配偶者  配偶者居住権 1000万円、現金 1000万円
子    負担付所有権 1000万円、現金 1000万円

・この遺産分割では、配偶者はそのまま自宅に住み続けながら、生活費として1000万円の現金を相続することができます。
このように、配偶者居住権を利用することで、遺産分割の内容が変わることがお分かりかと思います。
次回は、配偶者居住権のメリットとデメリットについてお話しします。

その4

今回は、配偶者居住権のメリットについてお話しします。

配偶者居住権のメリットは以下の4点があげあれます。
1.今の住宅に住み続けることができる
夫婦が持ち家に住んでいた場合、夫が亡くなった後、妻(配偶者)が配偶者居住権を利用すれば、今の住宅に住み続けることができます。子供夫婦と同居をしていた場合、親子の折り合いが悪い場合など、自宅を相続できないと自宅に住み続けるために苦労することが考えられますが、配偶者居住権があればそのまま住み続けることも可能です。

2.住宅以外の財産を相続することができる
住宅を所有権と配偶者居住権と分けて相続するため、現金を相続する可能性が高くなります。
「その3」の2)の例のように、相続財産が自宅が2000万円、現金が2000万円として、配偶者居住権を利用しないで、自宅を相続した場合は、自宅2000万円の相続だけですが、配偶者居住権を設定した場合は、自宅に住み続けられる配偶者居住権1000万円、現金1000万円を相続することが可能です。

3.代償金を支払う必要がなくなる
配偶者居住権を利用することで、相続に関わる代償金の支払いを減額することが可能になります。
相続財産が自宅2000万円、現金1000万円で、相続人を配偶者と子とした場合、配偶者居住権を利用せずに、自宅を相続した場合は、配偶者の相続分は(2000+1000)×1/2=1500万円となり、500万円を子に代償金として支払う必要がありますが、配偶者居住権を設定し、配偶者居住権1000万円、負担付所有権1000万円とした場合、配偶者は配偶者居住権1000万円+現金500万円を相続することができます。配偶者居住権を利用しないと500万円の代償金を支払う必要があるのに対し、利用すると代償金を支払わずに済むどころか、現金500万円を相続することまで可能となります。

4.相続税の節税対策になる場合がある
「その3」2)のケースの場合、配偶者居住権 1000万円については、配偶者のみの権利であり、亡くなったときは自動的に消滅します。よって、負担付所有権で自宅を相続した子は2000万円の自宅を1000万円で相続できることになります。このことから、相続税の対策になると考えられます。

その5

配偶者居住権のデメリットについてのお話しです。

配偶者居住権には大きなメリットを感じる反面、デメリットになり得る点もあります。

1、不動産の譲渡売却ができない。
配偶者居住権は、あくまでも居住し続けることができる権利なので、自宅を譲渡・売却することはできません。
また、負担付所有権についても、配偶者居住権の負担が付いた所有権を売買することができるかというと、なかなか難しく、特殊な事情がない限り困難であると思われます。

2、所有者が土地の税負担をすることになる
配偶者居住権を設定した場合、建物にかかる固定資産税は配偶者が負担する必要がありますが、土地については所有権を相続した人が支払うことになります。住んでいない土地の固定資産税を負担することから、相続した人が不満を感じることがあるかもしれません。

3、配偶者居住権を利用できるのは法律上の配偶者のみ
配偶者居住権はあくまでも被相続人の配偶者が利用できるもので、事実婚や内縁配偶者は対象外となります。

4、配偶者が若いと配偶者居住権の恩恵が受けづらい
配偶者居住権の設定期間を一生涯とした場合、配偶者居住権の評価額を計算する場合に存続年数を使います。存続年数とは、年齢性別に応じた平均余命年数が存続年数となります。60歳の女性の平均余命年数は28.37年、80歳の女性の平均余命年数は11.59年となり、これらが存続年数となり評価額に乗じて計算をされますので、若い配偶者の方は配偶者居住権の評価額が高くなることから恩恵を受けづらくなります。

次回は、評価額についてお話をさせていただきます。

その6

今回は、相続法の評価額について説明します。

配偶者居住権の評価方法については、建物の配偶者居住権と併せて、居住家屋の敷地を利用する権利も一緒に取得することになりますので、土地利用権の評価をする必要があります。この合計が配偶者居住権の評価額となります。

1、建物の評価方法
建物相続評価額-建物相続評価額×(建物の残存年数-存続年数)/建物の残存年数×存続年数に応じた複利現価率

2、土地利用権の評価方法
土地の相続評価額×存続年数に応じた複利原価計算率

建物相続評価額…固定資産税評価額になります。
残存年数…建物の耐用年数から建築当初から相続発生までの経過年数を引いたものです。
存続年数…配偶者居住権の存在する年数で、平均余命年数になります。
複利原価率…現金などを複利で一定期間運用していった場合、最終的な総額の現在価値を求めるための係数です。

それでは、以下のケースで計算してみましょう。
配偶者:妻
配偶者の年齢:70歳 → 平均余命年数=存続年数 20年、複利原価率 0.554
建物構造:木造 → 法定耐用年数33年
築年数:8年 → 33年-8年、残存年数 25年
建物相続税評価額:1000万円
土地相続額評価額:5000万円

建物の配偶者居住権の評価額 
1000万円-1000万×(25-20)/25×0.554=8,892,000円
土地の配偶者居住権の評価額
5000万円-5000万×0.554=22,300,000円
配偶者居住権評価額は上記を合計しますので、以下になります。
8,892,000+22,300,000=31,192,000円

お問い合わせ 026-217-1371